コロロン 〜孤独な自転車レース好き〜

2015年2月まで「ツール・ド・フランス」を「ロマンス街道ツアー」みたいな人気旅行企画と勘違いするくらいロードレースに興味がなかった筆者が、一瞬ではハマった自転車レースのことや自転車にまつわる日々を記すブログ(注:私はレース走りません)

そのとき私はフィニョンの名を思い起こしていた。

ツール・ド・フランス2020 第20ステージ。
今日のレース開始時点で、暫定1位のプリモシュ・ログリッチ
彼の一番最初の印象は、2016のジロのタイムトライアルです。
初日のタイムトライアルで、まず2位に入り、
第9ステージでステージ勝利をとりました。
わー、すごいタイムトライアル強い選手なんだー。
その後、グランツールで総合を狙えるような選手になってからも、
タイムトライアルがとっても強い、というイメージはそのままでした。

グリッチの57秒差で、2位につけていた、タデイ・ポガチャル。
ポガチャルの第一印象は、2018年のジャパンカップです。
その年、ポガチャルはグストに所属していて、ちょうどツール・ド・ラブニールを優勝した年。
「絶対にすごくなるから写真をとっておいた方がいい」
って教えてもらったので、アフターパーティーで写真をとってもらおうとチャンスを狙っていたのですが、一度もチームメイトたちから離れなかったので、シャイなのかな〜みたいなことを思いながら、集合写真みたいな形で写真をとってもらいました。


57秒差で迎えた、タイムトライアル。
タイムトライアルだから、もうログリッチは盤石だと思っていました。


ステージレースでのタイムトライアルは、初日でない限り、総合順位の逆順で走ります。

最終から一つ前の走者が、ポガチャル。
最終走者が、ログリッチ

そしたら、ログリッチの画面の下にだけ、マイナスの数字が出ていました。
タイム、というのはわかりました。
もしかして、今日のステージ暫定1位とのタイム差?
おお、やっぱりログリッチは速いのね。そう思ってました。
すると、その数字が、どんどん減っていくのです。
途中で気づきました。
これは、ログリッチとステージ1位の人とのタイム差ではないのではないか。
グリッチと、ポガチャルの、総合のタイム差なのではないか……。

解説の言葉をきいても、実況のアナウンスを聞いても、
まだ、え、いや、そんなわけって思ってました。
そのうち、その数字が、どんどん物凄い勢いで小さくなっていきます。
マイナス20、マイナス10、0。
そして、プラスへ……。

いや、計測ミスだろうって思いました。
GPSのエラーだろうと思っていました。

だって、ログリッチです。
タイムトライアルとっても得意な、ログリッチなんです。

そう思いながら、私の頭のなかで、フィニョンとレモンの文字が浮かんできました。

1989年。
ツール・ド・フランス最終日。タイムトライアル。
暫定1位だったフランス人選手、ローラン・フィニョン。
そのタイムを、2位のグレッグ・レモンというアメリカの選手が、タイムトライアルで1分近く上回り抜いて、最終的に8秒差で、逆転総合優勝をしたのです。
グレッグ・レモンが、このとき、はじめてタイムトライアルにDHバーを使用する、という革新を起こしての、勝利だったこと。
また、現在のようにツールの最終日で総合争いがないようなコース設定になったのは、これがきっかけだったのでは、と言われていること。
この二つから、ツールの歴史が載った本を読むと、必ず出てくるエピソードです。
歴史的映像みたいなので見た、そのレースのときの、フィニョンとレモンの映像が頭をよぎりました。

ポガチャルが、残り1kmのゲートを通過します。
この時点での、ステージ暫定1位は、トム・デュムラン。
2位が、この成績で、見事総合4位から3位に上がり、総合表彰台入りを果たした、リッチー・ポート。
3位が、ワウト・ファンアールトです。

そして、ポガチャルは、残り約500m時点で、デュムランのフィニッシュタイムとのタイム差が、マイナス2分35秒でした。

うそでしょう、って声がでました。

デュムランとファンアールトが、二人ならんで、ワイプで映ってました。
現地でモニターを見ているのでしょうか。とても険しい顔でした。

ポガチャルはペースを崩さず全力で走り切り、デュムランよりも1分21秒も速いタイムで、フィニッシュラインを通過しました。

そして、その数分後。
グリッチは、ポガチャルよりも1分56秒遅い、ステージ5位でのフィニッシュでした。

グリッチのフィニッシュを見て、
ポガチャルは、顔を覆ってスタッフと抱き合いました。
ここで、やっと実感がわいたのでしょう。

そして、茫然と座り込んだログリッチに、
チームスタッフと、ファンアールトとデュムランが寄り添って、繰り返し肩にふれ、声をかけていました。
しばらくしてようやく立ち上がると、
勝利インタビューを受けているポガチャルのところに行き、ハグを交わして、ひとこと讃えるような言葉をかけて、去っていきました。


なんか、すごい、とか、おめでとう、とか、残念、とか、そういう言葉がまったく出てきませんでした。
ポガチャル、横風で遅れてもう総合争い厳しいとか思ったよなあとか、
アルもフォルモロもリタイアして、総合系としてのアシストのメインの二人がいなくなって圧倒的に不利になっていたよなあとか、
いつも総合争いのときアシストがいなくなっているから、自分で攻撃しかけていたよなあとか、
ユンボはファンアールトのアシストはいつもすごかったよなあとか、
デュムランがアシストしてるっていうのが、めちゃくちゃ安心感あると思ったなあとか、
グリッチいつも安定して飄々と軽やかに山を走っていたよなあとか、
なんか、走馬灯を見てる感じの思考回路になってました。


今もまだ、なんか、衝撃が強すぎて、え、何を見たの?みたいな気持ちが強すぎて、
この結果に対して言葉がでてきません。

1989年にツールを見ていた人も、こんな気持ちだったのでしょうか。


最終的に、今日の結果を受けて総合と4賞はこうなりました。
総合1位 UAEエミレーツ ダデイ・ポガチャル
総合2位 ユンボ・ヴィズマ プリモシュ・ログリッチ
総合3位 トレック・セガフレード リッチー・ポート
ポイント賞 デュクーニンク・クイックステップ サム・ベネット
山岳賞 UAEエミレーツ ダデイ・ポガチャル
新人賞 UAEエミレーツ ダデイ・ポガチャル

結局ポガチャルは、山岳賞もとってしまいました。


なんか、凄すぎるとか、強すぎるとかよりも、
ドラマティックすぎるって言葉の方が合っている気がします。


これ、現実なんですよね……?
こんなこと、あるんですね……。

ただ見てるだけの私で、これだけ呆然としているんだから、
現地で見てる方はどんな気持ちなんでしょうね。

……今日、こんなに目が冴えちゃって、私眠れるのだろうか。
ちょっとツール百話でも開こうかしら。
そんな、ツール・ド・フランス2020 第20ステージでした。

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