コロロン 〜孤独な自転車レース好き〜

2015年2月まで「ツール・ド・フランス」を「ロマンス街道ツアー」みたいな人気旅行企画と勘違いするくらいロードレースに興味がなかった筆者が、一瞬ではハマった自転車レースのことや自転車にまつわる日々を記すブログ(注:私はレース走りません)

ツール・ド・フランス 2020 第3ステージ(初心者向け)

本日は第3ステージ。
平坦ステージです。

今年は自粛で自転車通勤とかに切り替えている方も多いから、自転車レースだって注目されているはず!
なので、本日は初見さん向けにも、私なりにわかりやすく書いていこうと思います。

さてさて。

昨日の山岳ステージとはまた違い、本日は、平坦ステージです。
そんなに険しい山がないので、最後の最後の平地での短距離決戦で勝負が決まるステージ、ということですね。

サイクルロードレースは、
言ってしまえば、陸上の短距離走と、ハードルと、1万メートルの選手が一緒に同じコースを入っているようなスポーツです。ハードルは、この場合は、登り坂ね。
そんでもって、ツール・ド・フランスは、21日間もレースをやるので、今日は短距離の選手が最後に勝てそうなコース、明日は坂道に強い人のためのコース、みたいないろんな設定があるのですね。

ただ、基本的にサイクルロードースで最終的に争うのは、総合タイムなんです。
全部のコース走った時間の合計が、一番短い人が勝ち。
で、ただの平地の100メートルでの競争と、すごい斜めの坂道の100メートルの競争を比べたら、後者の方がタイム差が出るじゃないですか。
なので、総合優勝できる人っていうのは、スキー場みたいな坂をばんばかすごいスピードで走るのが得意で、且つたった一人で平地を長めの時間走っても、それなりに速く走れるという、この二つの能力がある選手が総合優勝することが多いのですね。
平地一人で速く走れる能力が必要なのは、だいたい3週間もレースがあると1日は、たった一人で順番に同じコースを走る、タイムトライアルっていうルールのレースの日があって、
この日にタイム差がつきやすいからなのですが、
ややこしいのでとりあえず、めちゃくちゃ高い山をどんどん登れる選手じゃないと、3週間もあるレースは総合優勝できない、と思ってください。


でも、まあたくさんの選手がでているので、総合優勝意外にも、次の賞があります。
短距離速い人のための賞。
山だけが得意な人の賞。
若手賞。
がんばったで賞。
今日は一番はやかったで賞。

いやいや、うそじゃないから!ほんとだから!名前は口語にしたけど、本当にこういう賞だから!

だから、たくさんの選手がでているけれど、
「ぼくは総合を狙うぜ!」
「おいらはとにかく山の賞をとりたい!」
「とにかく1日、一番速く走れた日が1日でもあればいい!」
「勝てそうにないから、先頭を走って目立ちたい!」
「今日は地元だからいいとこ見せたい!」
とか、いろんなモチベーションで、選手は走っているのですよ。

ここまではツール・ド・フランスをはじめとする、グランツールと呼ばれる3週間やるレースの一般論。


で、今年のツールは、
総合優勝狙う、最強チームと言われていた、イギリスのイネオスってチームが、あれ、あんまり調子良くない?って噂がある感じです。

昨年優勝した、ベルナルっていうとっても若い選手が、このイネオスってチームにいて、今回出ています。
このイネオスには一昨年総合優勝したゲラント・トーマスって選手や、今までに4回総合優勝したことがある、クリス・フルームって選手が所属しているのですが、今年は出ていないのですね。
総合優勝争いできそうな力を持っている選手がいっぱい所属しているから強いっていうのが、このチームの特徴でもあったのですが、もちろん他にもいい選手はいっぱいいるのですが、ちょっと今年は、あれ?いつもの盤石な感じじゃないぞって感覚です。
あと、このチームの、優秀で有名でみんなから慕われていた監督が、この春に若くして亡くなったのです。
それからすぐにコロナの影響で多くのレースがなくなったため、その監督が亡くなってからのレース数がまだほとんどなく、その後のチーム内体制が、メンタル面含めてどこまで整えられているのだろう、と心配している部分があります。
ベルナルも、このツールの前のレースであんまり調子がよくなさそうだったので、昨年優勝したにもかかわらず、優勝候補筆頭ではないって感じです。


イネオスの代わりに、優勝候補名前があがっているのが、ユンボ・ヴィスマのログリッチ
元スキージャンパーで、いつも自然体な印象の選手なのですが、登りと、あと一人で走るのがとっても速い。
そんでもって、チームメイトに、一人で走るタイムトライアルの元世界チャンピオンのトニー・マルティンって選手や、ツールで総合2位とったことあるのデュムランって選手とか、あとなんかよくわかないけどいろいろ速い若手のファンアールトって選手とか、要は有名で人気で、協力し合えそうな選手がいっぱい集まっているのです。

あと、若手で総合系ですごいのがきたぞっていわれているのが、UAEのポガチャル。
若いときからすごいぞって言われてて、もうちょっと大人になっていろんなレースを経験したら化けるぞって言われまくってたら、
別にそこまで経験積む前にもう化けてるっていう選手です。


そんなこんなで、とりあえず総合は、まずこの3人を頭にいれて、あと、地元で悲願の優勝を託され続けて、いつも突然の体調不良や落車などの悲劇に泣くフランス人のピノって選手がいる、今年こそがんばれってみんな思ってるっていうのを頭にいれてみると、
なんとなく注目すべきところはわかるかなって感じです。
他にも優勝候補に名前があがる選手はいるけど、あんまりたくさん名前をあげてもたぶん覚えられないし、とりあえずはこれくらい覚えておけば、あとはレースを毎日ぼーっとでも見ていれば、総合上位にきた選手は自然と名前が入ってくるはず!


そんで、総合の次にとると名誉なのが、ポイント賞です。スプリンター、つまり短距離速い人向けの賞ですね。
この賞は、緑のジャージをきている人が、暫定ポイント賞1位になります。
これは簡単です。
ペーター・サガンって名前を覚えておけばいいです。

この賞、スプリンターっていう、登りは苦手だけど短距離は超速いって人達向けの、一番短距離速い人のための賞なのですよ。
だから、普通短距離速い人って、爆発力が必要だから、おもーいギアを高速で回すので、めっちゃ体が大きいし、体が重くて、山が遅いのですね。

が。

なぜかこのペーター・サガンは、一流のスプリンターでありながら、山もめちゃくちゃ登れるのです。
どのくらい登るか……。
えっとね、どっちかっていうと山と平地なら山の方が得意かな、くらいの選手よりは、全然登れます。
山で基本勝負します、の選手とは、頑張れば張り合えると思います。
山ならまず負けない超一流!の選手と比べると、そこまでではないかなと思います。

で、このポイントを取れる地点ってのは、毎日毎日いろんな場所に設定されていて、今日みたいな大したことのない山がちょこっとあるスプリンターステージのフィニッシュ地点のこともあれば、険しい山と山の間に中間スプリント地点っていうのがあったりもするのですよ。
その後者みたいなのは、どんどか山も登れちゃう、サガンの独壇場なのですね。

だから、ここ数年の傾向からいうと、
サガンが途中でトラブルでリタイアでもしない限り、ポイント賞はサガン以外とれるはずない、っていうのが、基本的な見方なのです。
ですので、サガンだけ覚えて、サガンを脅かす緑を狙う選手がいるかいないか、を考えればいいです。


次。山の賞。
これは総合優勝と被ることが多いので、慣れてから考えないと難しいです。2年目から考えよう。
とりあえず、山があるコースで速めにアタックして山を我先に登ろうとしている人は、これを狙ってます。
ぶっちゃけ、一番山登れる選手たちが総合争いで山どころじゃねえ!ってなってると、総合争いできるほどじゃないけど、そこそこ山得意って選手がとることがあります。
赤い水玉。超人気です。

次、新人賞。
数年前までは、ツールの総合優勝は30歳前後の選手がとるのが普通でしたが、最近めっちゃ年齢が低くなってるので、総合と被るので、これ目当てで走っている選手はたぶん今年はいないので割愛します!


最後、敢闘賞。
頑張ったで賞です。
1日で一番目立った選手、盛り上げた選手がとります。ツール・ド・フランスの偉い人?審査委員?みたいな人が決めます。


あと、今年のツールから見始めた人で、「アラフィリップって人がめちゃくちゃ騒がれてるけどなんなの?」って思った人がいるかもしれませんが、
「短距離とほんのちょっとの坂が強い選手だと思ってたら、なんか年々めちゃくちゃ山登れるようになってるんだけど何あなたすごいかっこいい!!?」っていう感じの、ただのスターです。
昨日の第2ステージみたいな、そこそこ険しい山アンド短距離平地フィニッシュとかだと、もう独壇場みたいに言われてます。
個人的には、今年東京五輪が開催されていたら、金メダル候補筆頭でした。
ただ、ポイント賞はサガンがいるし、総合優勝できるほどは山得意ではない(……たぶん。去年から脚質が進化してなければ)なので、いわゆる4賞ジャージを最終日に着るのは、難しいかもなあって感じです。山賞は可能性あるけど、こればっかりは総合優勝と絡むから、単体で狙うの難しい……。



以上!
ツール初見者さん向けでした!
ちゃんとツール初見さんわかるように書けているかな……。



さて、やっとこさレースの話に戻ります。

今日は、3級山岳が3つ、4級山岳が三つです。
最終的な山岳賞争いには、ほとんど影響のない山ですが、今日の時点では山岳賞争いにかかわりそうなポイントです。

最初、逃げとよばれる、集団から飛び出して山岳ポイントを目指した、もしくは目立ちにいった選手は、4人いました。
そこから1人減って、3人の逃げグループになりました。

うち、最初の2つの3級山岳をコフィディスアントニー・ペレスが1位通過して、昨日までのポイント累積で本日完走すれば山岳賞ジャージを今日もらえるはずだったのですが、その後、パンクからのおくれを取り戻そうとして下りで落車、鎖骨骨折をしてリタイアしてしまいました……。

ですので、本日山岳賞ジャージを着用して、どちらの山岳も2位通過だった、􏰊アージェードゥゼール・ラ・モンディアルのブノア・コヌフロワが、このまま本日フィニッシュすれば山岳賞ジャージを切ることになります。


コヌフロワとペレスが、逃げをやめたあと、
トタルディレクトエネルジーのジェローム・クザンは、一人でずっと逃げ続けました。
逃げっていうのは、勝負から逃げてるわけじゃなくって、
一番勝ちやすい集団ないにいないで、集団を引き離してその前方で不利な状態で少ない人数で走ってるのを、逃げ、とか逃げ集団っていうのですね。
個人勝利を考えると、すごい不利だけど、ここにいることで味方チームが集団の先頭に立つ必要がなくなって楽できたり、たまにそのまま逃げ切って勝ったりすることがあります。
そして、逃げてると目立つので、スポンサーへのアピールになります。

中間スプリントポイントという、スプリンター選手のためのポイント区間では、前述のサガンがクザンに続く2位通過で順調にポイントを積み重ねました。


本日は、スプリンターステージなので、フィニッシュ地点でのスプリンター賞の得られるポイントが高いです。
今日1位で勝つと、サガンでなくても暫定ポイント賞ジャージを着られる可能性があります。

本日勝ちそうな可能性があるのは、まずペーター・サガン。そして、本日自転でポイント賞ジャージをきている、第一ステージを圧倒的なスプリントで優勝したクリストフ。あとは、ポケット・ロケットの異名を持つ、小柄なスプリンター、カレブ・ユアン。先週ヨーロッパチャンピオンになったばかりの、ジャコモ・ニッツォーロ。今日ずっと集団を率いていた、ドゥクーニンク・クイックステップのスプリンター、サム・ベネット。あと、ロングスプリントという、ちょっと遠目の距離から発射するスプリントが得意な、マッテオ・トレンティンあたりでしょうか。


だいたい、毎年ツールのスプリントステージでは、残り20kmくらいで早めに逃げを吸収して、そこから位置どり(よりいい位置で味方チームのスプリンターが最後にスピードをあげやすい位置まで連れていく)がはじまるのですが、今日はちょっと遅めで、フィニッシュまで残り16km地点で吸収しました。


残り16km。
ここから、だんだんスピードがあがって、集団の位置どりが激しくなるはず。
道幅がまだ広いので、各チームがチームごとの列になって、先頭列が4列くらいある状態です。
まだそんなに激しくない、むしろまだ集団は落ち着いている感じです。
これがはげしくなると、スピードがあがって次々と先頭が入れ替わります。

残り13km。
スピードはあがってきましたが、ちょっとまだどこが主導権を持つかを見合ってる感じです。

この時点では、総合優勝を狙ってるチームと、今日のステージ優勝をしたいスプリンターを擁するチームの両方が前方にあがってるのですね。
集団では前方にいる方が、転んで怪我する可能性が低いので、総合系のチームは、万が一転んだり足が止まったりしてタイム差がつくことを避けるために、リスク回避とてして前方に位置取ることがあります。

残り7km。
道が広くって、トレイン(選手が縦に並ぶ状態)が集約されないですね。
今6列くらいあります。

残り6km。
ここで、コヌフロアとヴァンアールトが落車!
幸いすぐに動けてましたので、大きな怪我では今のところなさそうです。
ただ、自転車選手は人によっては骨折してても50kmくらい気づかずに走っている場合があるので、本当に何ともないかは明日走り出すまで断言できません。

残り4km。
ものすごくスピードがあがってます。
先頭はイネオス。リスク回避です。

スプリントステージでは、フィニッシュまで残り3kmを切ると、そのあとで転んで遅れても、救済措置といってタイム差がつかないというルールがあります。だから、総合系チームはそこまで位置どりをがんばる。

残り3km。
もう総合系チームは、リスク回避の必要がなくなりました。下がります。
前方に残るのが、スプリンター系のチーム。

残り2km。
サンウェブ、ロット・スーダル、UAEあたりが、順々に前に出て、スプリントしやすい位置を確保しようとしています。

残り1kmを切りました。
サンウェブが先頭。残り400m!
ボーラがあげる!ダニエル・オスのリードアウトで、真ん中からサガンが発射!
そのサガンの右側から、大きくスピードを上げて後続を引き離したのが、サム・ベネット
もうほぼ決まりかと思いきや、サガンの右を一気にすり抜けてそこから今度はベネットの左側にあがったユアンが、そのままベネットを抜いてフィニッシュ!!

ロット・スーダルのカレブ・ユアンがステージ優勝!!
スプリンターステージの高速スプリント集団を、稲妻のように駆け抜けて勝ちました。
かっこいい……!

ロット・スーダルは、第一ステージで、二人のとっても強い選手が落車による怪我でリタイアをしています。
サッカーや野球とちがい、サイクルロードレースは、選手交代という概念がありません。
基本的には、サイクルロードレースは、個人競技だからです。
現代では、風除けや逃げや位置どりトレインをはじめとした戦略は、チーム単位でたてて行うルールになりましたが、長い歴史のなかで(サイクルロードレースは第1回目の近代オリンピックからずっと種目があるくらい古いスポーツ)、チーム戦略がルール違反だった時代もあるような、元は完全な個人競技だったのです。その流れから続いているレースなので、今でもレース開始後の選手交代はできないのです。
だから、チームの人数が少なく、さっきオスがサガンのリードアウト役をやったような、チームメイトによるアシストが難しいため、ユアンは他のスプリンターに比べてかなり不利だったのです。
その中で、この勝ち方は、とってもかっこいい!
ユアン、おめでとう!!

2位は、惜しかった、ドゥクーニンク・クイックステップサム・ベネット
3位は、NTTプロサイクリングの、ジャコモ・ニッツォーロでした。


総合上位は、昨日の第2ステージ終了時点とかわりません。
暫定総合1位は、ドゥクーニンク・クイックステップのジュリアン・アラフィリップ。
総合2位は、4秒差でミッチェルトン・スコットのアダム・イェーツ。
第3位は、アラフィリップから7秒差で、サンウェブのマルク・ヒルシです。ヒルシは、25歳以下なので、新人賞もとってます。
ポイント賞は、着々と中間スプリントポイントをとっていた、ペーター・サガンです。
山岳賞は、アージェードゥゼール・ラ・モンディアルのブノア・コヌフロワ。
敢闘賞は、最後の方ずーっと一人きりで走りつづけていた、トタルディレクトエネルジーのジェローム・クザンでした。



ああ、やっぱりツールの前半のステージは、穏やかめなスプリンターステージを見ながら、すこしずつ今大会でている選手の名前と脚質を覚えていくのが楽しいなあ。それをベースに、後半ステージの予測を立てていくのが好きなんです。


しかし。

もう6500字を超えてるんだけど、果たしてこんな長い記事を最後まで読める「今年のツールが初めての観戦です!」って初心者はいるのだろうか……?


まあ、もし、そういう初心者の方で最後まで読んでくれた方のために、最後にひとつ書きます。

私がまだ観戦一年未満のときに、
もっとツールやレースのこと知りたいけど基本的なことがよくわからなくて、困って、
とりあえず目に付くロードレースのサイトや書籍をいろいろ漁ってた時代がありました。

その中で、「ああ、これでようやくわかった」って思った、
初心者の方に一番最初に読むのにおすすめしている書籍をご紹介します。


ツール・ド・フランス」山口和幸著

ツール・ド・フランスの取材を長年続けているスポーツ記者の山口さんが書かれた、ツールの紹介本です。
ツール関連の書籍はいっぱいありますが、歴史が長くて情報がありすぎるので、ただ詳しい情報の羅列の本だと、完全な初心者だとどんだけ情熱があっても最後まで読めずに挫けます。(経験者)
この本は、4賞ジャージのことや、ツールの歴史の変遷、過去の有名選手のこととか、とてもわかりやすく読みやすく、何よりも読み手に無理をさせない自然な流れで書いてくださっているので、いろいろ読んだ中で一番頭に入りやすかったです。
おすすめ。

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